暑熱順化を考える
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さて、テレビの天気予報内で、熱中症に対して注意を促す声が聞こえ始めました。
昨年も7月に入ってから1週間が経過した時、暑熱順化について書きました。
〔▶該当記事…熱中症対策 ~その1 暑熱順化~ *2016.7.8公開〕

熱中症という言葉は、現在は一般的になり、その恐ろしさも多くの人が認識しています。
しかし、自身が子どもの頃は、ここまで暑さと体調不良について、
大きく取り立たされることはなかったと記憶しています。
さらに、部活動等スポーツの現場では、逆に「水を飲むな!」と言われてきました。

それでも周囲は・・・特に大きな問題は起こっていませんでした。
ではなぜ近年、頻繁に熱中症が起き、それが問題になっているのでしょうか?
気象庁の気温のデータを調べてみましたら、
30年前と比べますと、近年の名古屋気象台の観測値は、若干上昇しているのは事実のようです。
ただ、非常に大きな差は確認できませんでした。
では一方、何が熱中症を引き起こしているのでしょうか?
やはり大切なことはイメージや感覚ではなく、
熱中症に対して、正しい認識を持つ必要があります。
自クラブで夏季、サッカーの練習を実施しましたところ、
水分を充分摂ったにも関わらず、体調不良の子どもが出るケースがありました。
そもそも、熱中症の主な症状とはどのようなものでしょうか?
…大量発汗、強い口の乾き、倦怠感、嘔吐、脱力感、反射の低下、筋痙攣、
強い頭痛やめまい
などです。

自クラブ内の実際のケースを振り返ります。
グラウンドの中には、年少児から小学5年生までが活動。
しかし、熱中症の症状が出たのは・・・
この中でも比較的体力のある4年生の男子。
その子どもの症状は、倦怠感、吐き気・・・正に熱中症の症状です。
ここで、分かることが、
「“一概に”小学生より、幼児のほうが熱中症なりやすいとはいえない」
ということです。
(注:但し熱中症と体力は、関係はあります)
人間の身体は常時熱を放出し、体温を一定に保つ働きをしています。

ただ、その機能が何らかの理由で鈍ることにより、
体内に熱がたまり、体温が異常に上昇してしまうと熱中症の症状が表れます。

今回例に挙げました(熱中症になった)子どもは、普段は週に2から3回はサッカーをしています。
ただこのケース・・・
夏季休暇で「運動の習慣が一時休止した」ことが、最も大きな原因でした。
温度変化に対し体温調節機能がうまく働かず、身体の内部に熱がこもったことで、
熱中症になった可能性が大いに考えられました。
重要なことは、
ただ単に
▲「運動している(スポーツクラブに通っている、部活動をしている等)」
▲「水分や塩分を補給している」
ということではなく、
『効果のある熱対策』ができているかがポイントになります。
例えば、暑くなる前、暑くなってからも継続して身体を動かすことにより、
体内の血流を増やし、熱を発散させる能力を高め、
暑さに“身体を慣らしていく”という方法は、
『運動生理学的にも立証』されています。
熱中症対策についての多くは、
「水分補給や塩分補給といった“受身的な防止策”」が中心で、
実は『積極的な改善策』は、身近にはあまり伝わっていません。
なぜ、熱中症になってしまうのかを正しく認識し、
『根本的な解決策』をとっていかなくてはいけません。
では、その正しい方法(熱中症対策)を考えてみましょう。
暑い環境下では、人間は汗をかいて体表面から汗を放散し、体温を37℃程度に保とうとします。

但し、子どもは体温の支配神経である自律神経の働きが未発達であるがために、
体温1℃上昇当たりの発汗量(発汗率)が低く、
『暑さへの対応に時間がかかる』
といわれています。
そのため、環境の温度変化の影響を受けやすく、
大人に比べて高体温になりやすいといわれています。

しかも乳幼児の場合、
暑さを感じても、大人のように自分で服を脱ぐのが難しく、
また自分で水分を補給することもできません・・・。
そこにはやはり、大人の正しい知識とサポートが必要不可欠です。
☆対応策のポイント
「暑熱順化(しょねつじゅんか)」を行う…暑熱順化とは??
暑さに身体が慣れることをいいます。
急激な温度変化に体温調節機能がうまく働かず、
身体の中に熱がこもってしまうことで、熱中症になるリスクが高まります。
こうした温度変化に対応するためには、
前もって暑さに対して慣れるようにすることが大切です。
日本の首都の防災を担う、東京消防庁では、
消防隊員の“暑さ対策”について数年前から検証を進めてきました。

夏場の暑い環境で、防火衣及び防火帽を着装して活動する消防隊員には、
大きな“熱ストレス”がかかり、熱中症を誘発する確率が高いと考えられています。
活動安全課では消防隊員の熱中症対策のために、
平成 21 年度から、自らの身体を暑い環境に適応させる「暑熱順化」に着目し検証。
防火衣等完全着装で、一定強度以上の運動を実施。
夏場の環境を想定した運動負荷テストを行い、トレーニングの効果を確認した結果・・・
暑熱順化の効果として現れる心拍数の抑制、体温の低下等の変化がみられたことから、
消防隊員の『暑熱順化トレーニングは有効』であることが確認されました。
暑熱順化とは、暑さに身体が適応した状態のこと。
身体が暑さに慣れると、血液循環が良くなり「効率良く汗がかける」ようになります。
さらに、大量の汗をかいても適切な水分を補給すれば体液バランスがすぐに回復するので、
熱中症になりにくくなるのです。
【暑熱順化の効果】
○ 身体が暑さに慣れると血液循環が良くなり、効率良く汗がかけるようになる。
○ 暑熱順化後は、『ナトリウムの排出量が減少する』ため、
“サラサラ汗”が排出されるようになる。
○ 暑熱順化した人は、発汗後の水分補給で体液量を回復しやすい。
人間の身体は、
外気や環境、季節に応じて体質が変わる(*順化する)ようにできています。
暑熱順化を促す効果的な方法は、大別しますと次の2つです。
〔方法〕
1⃣ 発汗を促す
2⃣ 環境温度を見直す
暑熱順化方法1⃣…積極的な発汗
①ウォーキングで汗をかく
②自転車をこいで汗をかく ※①・➁ともに“有酸素運動”
③半身浴やサウナで汗をかく(*シャワーで済まさず浴槽につかる)

暑熱順化方法2⃣…環境の見直し
①空調を適切に(*冷房の設定温度を少し高めに設定)
➁服装は、軽装・半袖に(*皮膚から熱の出入りができるように調節)
➂朝夕は室内に外気を取り入れる

▶そして・・・いずれの場合でも、適切な水分補給は不可欠です。

環境のみ変えて、じっとしているだけだと順化が完成するまで時間がかかります。
やはり軽い運動(積極的な発汗)を組み合わせて行うほうが、
明らかに望ましいといえます。
運動強度を上げるほど順化速度は速くなり、
例えば10分のウォーキングを1日5回、
休憩をはさんで行えば、
「早い人で4~5日、大凡1週間」
で暑さに慣れてきます。
◎1⃣と2⃣を組み合わせて、確実に行うことで速やかな暑熱順化が可能となります。

運動初日よりも“バテ感”が減ってきたら順化が進んだサインです。
(途中で熱中症にならないよう、休憩と水分補給を行いながら進めることが大切です)
留意したいことは、せっかく順化しても、
運動を止めたり、暑さに身体をさらさない日が続くと、
効果は薄れてきますので、汗をかける環境を作り続けることが何より大切です。
かつては誰でも梅雨の間の暑さにさられて、本格的な夏到来の前に順化していましたが、
“冷房のある環境”で過ごす人が増えた今は、
『熱中症のリスクを下げるには、
順化するための積極的に対策を講じる進めることが必要』
です。
太平洋高気圧がもたらす蒸し暑い“夏”という季節がある日本に暮らす私たちは
「スポーツをする」、「しない」に限らず、
『暑さに対する正しい知識と実行』が必要になります。

特に一生懸命スポーツに取り組む子どもたちには、
“暑熱順化”の考え方、意識を持たなければいけません。